プロローグ
墓守キッチョムのおとぎ話
HELL’S FIRE
PROLOGUE
むかし、むかし。
あるところに、ルカという墓守がおりました。
彼は地獄から地獄の炎を持ち帰りました。
その炎を使うことによって何年もかかっていたデスダストの製造が、
たった数日でできるようになりました。
死人たちはデスダストを使って腐敗を防いでいたので、
大喜びしましたとさ……』
赤い炎渦巻く地獄の大地。
天を覆う炎はまるで流れる雲のようにゆらゆら揺れている。
大地は黒い土に埋め尽くされ、河となった血が湯気を立てて流れていく。
溶岩のように噴出した血が亀裂となって見渡す限り広がっている。
風が吹きすさび、赤い落雷がところ構わず落ちている。
雷鳴がとどろく中で人間の悲鳴が遠くから、うなるように聞こえてくる。
そんな地獄に二人の墓守がやってきた…。
一人は大きな黒い修道服姿の男。
大きな艶のあるマントを羽織っている。
もう一人は幼い子供。
小さな薄汚い白い修道服を身に着けている。
赤い炎は彼らを見つけた。
炎は渦となって地表に落ちてくる。
『帰れ…!帰るんだ!ここはお前たちがくるところではない!!』
幼い子供は肩をすぼめて男のマントの中に隠れた。
男はマントで幼い子供を包んでやった。
大地の黒い土は耳をそばだてた。
『おまえらはいったい何者だ…、聞き逃すものか…!聞き逃すものか!!』
「われわれ墓守は命を懸けてきたのだ……。
デスダストを少しでも完璧なものにするために……。
見るがいい、ここが我々の聖地だ……」
落雷は更に数を増やした。
雷鳴がとどろく…。
『やつらが来た…!奴らが来たんだ!!墓守が来た!!』
幼い子は体を震わし男の足にしがみついた。
「いいか、キッチョム約束してくれ……、
決して掟に背かないと……。
掟は墓守が命を落とした証拠だ。
ルカのようにすぐれた業績は残せなかったが、
彼らはわたしたちにいくつかのタブーを残したのだ……、わかるな?」
地表を流れる赤い血は怒りで煮えたぎった。
『ルカ…。ルカ…。あのコソ泥が!!墓守が!!』
幼い子供は必死に頷いて見せた。
男が幼い子供の頭に手をのせ跪いた。
「もう帰ろう……」
風は猛威を振るった。
恐ろしい勢いで彼らを取り囲む。
『帰すものか…!お前たちを八つ裂きにしてやる!!』
幼い子供の目から大粒の涙がいくつも落ちる。
「帰ろう…。
墓守は地獄の入口からけっして足を踏み出してはならない。
ここが地獄の入口だ。
私たちが入ることが許されているのはここまでだ……」
幼い子供は手を伸ばし男の首に手を回ししがみついた。
風は地獄の亡者の叫びを彼らの耳に運んだ。
『……たすけて……たすけて……聞こえるか?聞こえるか!?この叫びが!』
『さあ、一歩踏み出すんだ!!一歩でいい…そうすればお前らを八つ裂きにしてやるのに…!!』
男が幼い子供を抱き上げ立ち上がる。
まるで立ち上る湯気に飲み込まれたかのように二人の姿は消えてしまった。
天の炎は荒れ狂い地上を焼き尽くそうとする。
落雷は地上にあるあらゆるものを破壊し隠れ場所を奪おうとする。
雷鳴は叫び声をあげ地上を揺るがした。
黒い大地は彼らを探すためさらに耳をそばだてた。
風は吹き荒れ気が狂ったように地獄を駆け巡った。
地獄の亡者の苦しみは増し、阿鼻叫喚の世界が地獄を埋め尽くした。
『八つ裂きにしてやる……!八つ裂きにしてやる……!』
しかし、その声を聴くべき者はすでに地獄を去ったあとだった……。
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